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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)1223号 判決 1959年10月30日

控訴人 王林春こと郭宝珍

被控訴人 中倉友二郎

主文

原判決を取消す。

本件仮処分決定に対する控訴人の異議申立を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決ならびに本件仮処分決定を取消す。控訴人の本件仮処分申請を却下する。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠関係は、控訴代理人において甲第一ないし第四号証の成立をみとめると述べたほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

昭和三〇年三月二四日発令された本件仮処分決定(同月三一日付更正決定をふくむ)が、当時大阪市南区西櫓町四三番地上で控訴人が現に改造工事中の家屋番号同所六九番木造トタン葺二階建店舗(現況は建坪、二階坪いずれも約一五坪)につき、被控訴人(仮処分債権者)の控訴人(仮処分債務者)に対する所有権にもとづく明渡請求権を被保全権利として、本案の執行を保全するため控訴人の占有を解いて執行吏保管としたうえ、控訴人の占有移転ならびに建築工事の続行を禁止して控訴人の使用を許した、いわゆる現状維持の仮処分であることは、記録上明らかであり(控訴人は右仮処分の対象家屋は現存しないと主張するけれども、その理由のないことは本件記録からうかがわれる右仮処分決定発令の経過に照し明らかである)、成立に争のない甲第一ないし第四号証と記録上明らかな本件訴訟の経過に徴すれば、控訴人が右仮処分決定に対し昭和三〇年四月二六日異議の申立をなし、原審が口頭弁論を開いて審理していたところ、原審の右口頭弁論の終結前の昭和三一年五月一四日当時には、すでに右仮処分の本案たる大阪地方裁判所昭和三〇年(ワ)第一、三二七号建物明渡請求事件において被控訴人の勝訴判決が確定し、被控訴人の右店舗の所有権にもとづく控訴人に対する明渡請求権の存在が既判力をもつて確定したこと、右仮処分決定は昭和三〇年四月一日執行せられ、昭和三一年一〇月一日本案の右確定判決にもとづく明渡の強制執行が完了したことがみとめられる。

被控訴人は本案の確定判決にもとづく明渡の強制執行の終了により本件仮処分決定は当然失効したと主張するけれども、本案の執行保全のために発令された本件仮処分決定がよくその機能を果したからといつて、仮処分決定の裁判としての効力が当然に失効するものではないから、被控訴人の右主張は理由がない。

そこで、右の場合、原審としていかなる裁判をなすべきかについて検討する。

裁判所が仮処分の申請について、口頭弁論を経ずに被保全権利の存否及び保全の必要性を審査したうえ、決定をもつて仮処分命令をなした場合に、債務者から異議の申立があると、裁判所は必らず口頭弁論を開いて同一申請事件の継続としてさらに審理裁判しなければならない。

しかし、すでに発令された仮処分決定は、債務者の異議申立によつてその効力を失うものではないし、また、異議申立後の口頭弁論における審判の範囲は、発令前の仮処分申請(保全訴訟における訴の申立)のすべてにわたるものではなく、仮処分決定の中に集約的に具現された範囲での仮処分申請である。債権者がいわゆる断行の仮処分を申請した事件において、裁判所が保全目的を達するに必要な処分として右申立の範囲内で単にいわゆる現状維持の仮処分決定をなすにとどめたときは、これに対する債務者の異議申立後の口頭弁論では、右現状維持の仮処分決定の中に具現された仮処分申請の当否が審判の対象となるのであつて、裁判所は当初の断行の仮処分申請自体の当否を審判することは許されない。もし、これに反すれば、不利益変更禁止の原則に触れるであろう。したがつて、異議後の口頭弁論では、仮処分決定という強い甲羅におおわれた仮処分申請の当否のみが審判の対象となるのであるから、仮処分申請の当否は即仮処分決定の当否ということになるのである。異議後の口頭弁論において当事者が仮処分申請の当否をめぐつて争う場合に、債権者が仮処分決定を認可する判決(認可の判決は、仮処分決定の正しいことを承認するものであると同時に、仮処分決定の中に具現された仮処分申請につきじご判決をもつてこれを認容した効果を生ぜしめるものである)を求め、債務者が仮処分決定の取消(一部取消としての変更をふくむ)を求めるのは、このためである。保全訴訟のこのような構造からすれば、債務者の異議申立は、これを単に仮処分申請の当否について口頭弁論による再調査の請求にとどまるものとして、その申立と同時に目的を達してじご効力を失つてしまうような性質のものと解すべきではなく、仮処分決定そのものの取消を求める申立として、同一審級間における不服申立であることを本質とするものであり、口頭弁論に移行した後もなお債務者の不服申立としての効力を持続するものと解するのが相当である。そして債権者は、仮処分決定をかち得た地位にありながら、その仮処分が口頭弁論を経ずになされたばかりに、債務者の異議申立によつて他動的に口頭弁論に引きずりこまれるのであるから、債務者自身が異議申立によつて仮処分決定の取消を求めることが許されない事情が発生するにいたつたときは、裁判所は、判決をもつて債務者の異議申立を不適法として却下すべきである。

本件にみられるように、仮処分の被保全権利を訴訟物とした本案において債権者の勝訴判決が確定すれば、仮処分の被保全権利の存在が終局的に確定し、その限りにおいて仮処分決定の内容が本案判決によつて最終的に支持されることになるのであつて、債務者は保全訴訟において本案の確定判決の既判力と矛盾するところの、被保全権利の不存在を主張して当該仮処分決定の取消を求めることは許されないといわなければならない。したがつて、債務者が被保全権利の不存在を主張して仮処分決定に対し異議を申立て、これによつて裁判所が口頭弁論を開始し未だ当該仮処分決定認可の判決をしない間に、債権者勝訴の本案判決が確定するにいたつたときは、裁判所は判決をもつて債務者の異議申立を不適法として却下しなければならない。

以上の次第で、原判決が本件仮処分決定認可の判決をしたのは違法であるから、民訴第三八七条に則りこれを取消し、本件仮処分決定に対する控訴人の異議申立を却下し、訴訟費用の負担につき民訴第九六条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 神戸敬太郎 木下忠良 鈴木敏夫)

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